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『資本主義が​嫌いな​人の​ための​経済学』を​読んだ。

ジョセフ・ヒース『資本主義が嫌いな人のための経済学』を読んだ.ここ最近何冊か一般向けの経済学書を読んだのだけど,それらの中では一番良かった.

Amazon のレコメンドでこの本に出会ったときは,「資本主義が嫌いな人のための......」という邦題のせいで,買うのをちょっとためらってしまった. なんか知らんけどイデオロギー的なものへの拒否反応が出てしまったんだろうか. 原題は “Filthy Lucre: Economics for People Who Hate Capitalism” なので,邦題はむしろ忠実ともいえるのだけど. あと,この著者の最近の本である『啓蒙思想 2.0』もすでに読んでいるので,そういう筆致の著者ではないと知っていたのに.不思議.

冒頭で書かれていること,つまり,なぜ哲学者ヒースが経済学分野での常識を,あえてこんな分厚い本で説こうとしたのかを読めば,こちらが邦題になっているのも理解できた.

政治的な議論において経済学は経済について語る上で援用されているが,右派も左派もそれぞれの誤謬を重ねてしまっているのは嘆かわしい. ことイデオロギーと一緒くたにされやすい分野だからか,熟慮すればわかることが広まっていない. 他方,教養レベルの経済学講義で語られる内容は,実世界の経済の様相をうまく表せているとはどうも思えない. それぐらいの浅い知識でも,語り手には事欠かないぐらい,経済が関わる物事は多いにも関わらず.みんな,本当は何もわかっていないんじゃないか?

こういう気持ちが根底にあったので,この本は初めから終わりまでおもしろかった. 自分が科学的知識をかなりの部分で信頼しているのと同じように,資本主義経済の仕組みを信じているつもりだった. でも,もしそのナイーブな視座に対して,現代の資本主義社会にある種の不道徳さや悪意への脆弱性を感じている人からまさにそうした点を問われることがあれば,きっと答えに詰まるんだろうなとも思っていた. あとこれは意地悪な考えかもしれないが,自分の周りには科学的思考を身につけたであろう人たちが多いにも関わらず,どうも社会や経済的なテーマについては放言をしてしまう人もいるような気がして,不思議に思うことが多かった. 経済と雇用との関係や社会福祉,再分配,自己責任論にについてなどなど. 自分自身はこの意味では左派寄りなのだろうが,それはともかく不思議に感じるようなことを言う人が多く感じていたので,ある種の FAQ として考えられるようになったのは良かった.