Published on

『猫的感覚 動物行動学が​教える​ネコの​心理』を​読んだ

猫(イエネコ)がどのようにその祖先から変化し,人間との共生をするようになったか,ということから始まる.その後,完全に家畜化されてはいないイエネコの特徴や性質を,著者らのものを含む色々な研究成果から明らかにしていく.最後のほうでは,人間のつくる急速に変化する環境において,これからも猫と人間が互恵関係にあるためには何が必要なのか…という展望を示す,って流れの本だった.

新しいことを知った,という点では中盤のイエネコの動物行動学的な特徴についての記述が面白かった.

有益さという点では,猫をよく思わない人間が持ち出すいろいろな理由に対して,事実確認を行っていた後半部がよかった. 確かに,野良猫の一部(野生化した猫?)は小動物を狩る.しかし,それ以外の都市部で暮らす野良猫やイエネコはもはや熱心なハンターではない.また,ネコ以外にも野鳥などを狩る動物は多い.ネコによる悪影響は想像よりも小さいのではないかといえそうな流れだった.当然,孤立した生態系に野生化した猫が入り込んだ場合は被害が出る点にも触れている.ここでは,こうした野生動物の保護が,猫だけを取り除けば済むような単純な話ではないことを言っていた.

また,避妊や去勢は現代では常識なだけでなく動物の権利的な面でも推奨されていることだ.けれど,これは,遺伝子プールの多様性確保,特に先の狩猟本能や猫の不安駆動な部分を和らげてより良く人間社会に向いた個体を増やすという点では,果たして良いものなのだろうかという問いかけもできる. 人間が良かれと思ってやったことが,結局最も人間社会に向いてない猫(野良猫・野生猫)の遺伝子ばかりを残すことになってしまうのではないか,という考えは新しいと思った.

(なるほど,と思うけど,そんなに短期間に変化するものなのかな,って疑問もある.)

…という感じの,だいぶ固いアカデミックな本だった.よかった.翻訳は直訳調で読みにくかったかもしれない.ただし,訳の正確性については,原著の"Cat Sense ..."を読んでないのでわからない.