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人間と猫の引越し回顧録(帰京編)
今年は猫 Advent Calendar のことをすっかり忘れてしまっていた。ちょうど最近京都に戻ってきたので、猫を連れての引越しについて書こうと思う。
はじめに: 引越しの多い人間と、引越しが苦手な猫
一昨年の記事では、保護猫カフェでの猫との出会いについて書いた。 そこにあるとおり、うちの猫は人懐っこい一方で抱っこや爪切りが苦手という、引越し耐性が低そうな感じの猫だ。
この記事では、引越しが多い人間と、引越しが苦手な猫の場合の引越しについて、直近の引越しを振り返って記録する。
引越しというか居住についてのあれこれは、ごく私的な条件を含むものなので、本題に入る前にまずは人間と猫の属性について触れておく。
人間の紹介
これを書いている人間は、通勤電車のストレスや時間のばらつきへの耐性が極端に低いため、勤務地や職が変わるたびに引越しをしている。 だが、よくある会社というものでは、業務命令による場合以外は転居にまつわる諸費用は出ないことが多い。 それでもこの人間は、日々のストレスを減らすためだけに、引越し貧乏を続けてしまうぐらい、望まない引越しを繰り返してしまうたちなのだ。
この人間のこうした特徴は、彼の育ちによるものだろう。 いわゆる転勤族である父をもつ彼は、生まれてから現在までに 9 回の引越しを経験している。それらの引越しの多くは、社会的な都合であったり、彼自身のストレス最小化の施策であった。
しかし、今回の引越しは家族の都合を一番に考えた引越しとなった。 たまたま、諸々の混乱による物理出社制度の衰退と、その需要に応えるテクノロジーの広まりが重なっていたため、都合よくそれらに便乗してしまった1。猫にとっても、このあたりの情勢の変化は想定外のものだっただろう2。
なぜ京都かというと、同居する人間の故郷であり、彼自身にとってもそれなりに馴染み深い場所であったからだ。また、彼自身の強いこだわりとして、わかりやすく整然とした幾何的特徴をもつ街に住みたいというものがあったため、おのずと候補は絞られた。
この帰京計画自体はもう何年も前から人間たちの頭にあった。その機運が高まるたびに、互いにその理由をポイント制で挙げていた。 今回は同居人の仕事はリモート化がしにくい医療関連職であることや、その両親の希望が挙がった一方で、こちら側は特に理由がなかったため3、円満に京都に戻ろうということになった。
猫の紹介
そんな人間と出会ってしまったがために、この猫はこれまで 3 回の引越しを経験している。いや、正確には、元々どこかで飼われていた時、そして多頭飼い崩壊の惨状から保健所へ、保健所から保護猫カフェへと何度も移動を経験している気がする。 そういうわけで、わりとハードな猫生を経験しているようだ。
猫は家につく、といわれることが多い気がするが、これは家というより自分の認知する空間・環境のことだろうか。猫にとっては、ソファの生地が変わるのも、人間が椅子をずらすのも、普段はクローゼットにしまってある喪服などが入った衣類ケースがベッドの上にあるのも、全てが変化である。
猫はそうした変化をちゃんと見ている。極力威圧感を与えないように設計された丸みのある形状のキャリーバッグが自分の生活スペースに現れた途端に、猫の平穏な生活は失われるらしい。もっとも、予測可能性が高い方がいいという性分なのは人間と同じだ。
そうした繊細さを持ちながらも、この猫はとても人懐っこく、特に肌寒い季節になると人間と一緒に寝ることも多い。あくまで暖を取るという目的だが。
準備編
猫に気取られないうちに引越しが終わっているというのが理想的だが、引越しが部屋の環境に対して侵襲的である以上、実際にはかなり無理筋だろう。そこで、ここでは現実的な対処をしていく。 猫の居場所の確保である。
猫は賢くどこにでも収まるので、引越し準備の混沌の中でも猫の居場所を確保するのは容易だ。あらかじめ猫の聖域を作っておいて、そこに干渉しないまま引越し準備ができると良い。人間側の梱包、搬出準備の都合を考えつつ、それまでの生活で猫が気に入っている場所のうちの一つを猫専用スペースとして残しておくことになるだろう。そこに扉があれば搬出時には理想的だが、ない場合は脱走対策をする。
引越し当日の移動手段の確保も早めにしておくほうがいい。ペット同乗可能な人間用タクシーもあるが探すのが面倒なので、予定が決まっているならペットタクシーを予約しておくほうが楽だと思った。
部屋探し in 2020
この段階では、むしろ人間側の準備が大変かもしれない。
賃貸物件の市場は正直よくわからない慣習や手間が多く、あまり何度もやりたいものではない。幸い、京都市内という場所のせいか、猫と住める賃貸物件はそもそも多くないため、選択肢の多さに圧倒されることもなかった。
先に書いた通り、2020 年は COVID-19 の影響を無視することはできなかった。けれど、遠方からの部屋探しにまつわる手間については、正直なところ急に改善されたと感じた。
部屋探しの方策について。ここでは、(2020 年だぞ?と思いながら)未だにペット可物件が少ない事実がスクリーニングとして機能するため、今回はカバー率重視で有名どころの物件情報サイトでおおまかな街区指定をかけて候補を挙げた。
つぎに、人間側の都合で、高速なインターネット回線が整備されている確度が高そうなものに絞り込んだ。ここでは、フレッツ光(NTT 西)の開通チェックサイトを利用した。もちろん、オーナーとの交渉でこのあたりはどうにかなる可能性もあるし、この既設回線情報も完ぺきではないが、手間はなるべく少ないほうがいいので。少なくとも、「全室インターネット利用可」のような表記とその実態のギャップに悩まされることは避けたい。
マンション光回線についての諸事情は、部屋探しのときにこちらの記事を読み、その実態に震えてしまったため、慎重にやった。 今回の物件は「フレッツ光マンション・スーパーハイスピードタイプ 隼」と表記があったので、この点で即決してしまった。 だが実際住んでみると、PPPoE 接続だと混雑時には 20Mbps も出ない状況だった。 前に読んだこの記事を思い出し、プロバイダ側の契約で V6 プラスを有効にして、MAP-E 対応ルーターに交換したところ、仕事での GCR/ECR からの Docker Image のダウンロードも、Steam のゲームのダウンロード速度も問題なくなり、真に快適になった。
候補となる物件が揃ったら、不動産仲介業者に連絡した。このとき、LINE で初期対応してくれるところを選んだのは正解だった。記録に残るし、たぶんだけど、相手側の応答も旧来のメールより早いし。
今回 UX が良かったのは、契約書費用の見積りだけでなく、契約の諸々までもオンラインで完結したことだ。たまたま、仲介業者と契約した物件の管理会社の両方がオンライン手続きに対応していたのが幸いだった。ちなみに、候補が少なかったことや時期的な制約もあり、内覧は仲介業者の人が撮ってくれた直近の室内写真を見て済ませた。洗濯機置き場などの重要そうな寸法も測ってくれて、とても助かった。
引越し業者については、同居人が選んでくれた。相見積を取ったのだけど、このときの交渉フローのどうしようもないくだらなささには驚いた。うまく交渉してくれる人が同席していなかったら、素直に信じてそのまま契約していたかもしれない。
梱包から搬入まで
引越しのスケジュールは直前にならないと決まらないことが多いし、その当日もいろいろな段取りを臨機応変にこなさないといけないため、ストレス的に心配だったが、今回は余裕のあるスケジュールだったので救われた。遠方への引越しだったため、搬入・搬出が 2 日以上かかる計画だったことが幸いした。
梱包
- 直前にやると見通しが立たなさ過ぎて精神が死んでしまうので、2 週間ぐらいかけて順番にルーチン化してこなしていった。
- 不要なものは、このとき処分していた。
- 本や旧世代機向けゲームを売った。アーマードコア 4(The Best)が安すぎて、いっそ売らなければよかった。
- 部屋のレイアウトを刷新できるいい機会なので、大型の家具を処分した。世田谷区の粗大ごみ回収サイトを見ると、1 か月前申し込みでも結構ギリギリだった。
- 猫用品やすぐに必要になるものを、新居に届くように設定しておいた。時間帯配達を信じる心が必要。
- 引越し業者の営業担当の見積では段ボールは大・中合わせて 30 枚となっていたが、部屋全体の半分も梱包し終えぬ間に尽きてしまった。なんともいい加減な見積。追加は有料となっていたので、結局楽天の一番安くて早く届く業者から 20 枚ぐらい買った。普段梱包材の価格を意識していなかったので、5000 円ぐらいするのかと驚いた。
Day 1(猫輸送)
- 猫と最低限の荷物を新居に運ぶ。
- 猫をバックパック型のキャリーに入れる。そもそも箱で部屋が混沌としており、猫にバフがかかった状態だったため、予想外に苦戦した。前回の引越しでは「ちゅーるだまし討ち」をしたが、キャリーバッグ内で暴れてかわいそうだったので、正攻法でネットに入れてなんとかした。
- ペットタクシーで品川まで。新幹線で品川から京都まで。一番不安な工程だったけど、実際は乗客は少なく、猫もおとなしかったため、一番ストレスなく終わった。
- 京都についたら、そのまま不動産会社に立ち寄り、鍵を受け取る。同居人は実家も近いので、そのまま帰郷エンド。
- 自分はいったん旧居に戻る。新幹線の出発まで時間があるので、設定していた荷物を受け取ったり、照明器具を取り付けたり、回線のセットアップをしたりした。
- 直前まで必要だったものを梱包。思ったより手間取り、寝られない。
Day 2(搬出)
- 引越し業者が朝に来た。予定より半日早かったので、睡眠が終わっていた。
- 搬出は屈強なスタッフが手早く済ませてくれた。営業担当者の雑な見積について話すと、普段から困っている様子だった。
- ラグを片付けようとしたら、昨日ネットに入れる前に猫が隠れていたところに 💩 が落ちててびっくりした。トイレの前に出発しちゃったからだろうか。
- 自分は京都へ。
Day 3(搬入)
- 一部屋分を猫と人間の退避スペースとしたため、何事もなくスムーズに搬入が終わった。
- 営業担当者の雑な見積について話すと、普段から困っている様子だった(こっちでも!)
- 事前に CAD ソフトでざっくりとした図面を書いてレイアウトを決めていたので、諸々が楽だった。
おそらく猫にとって最初で最後の超高速長距離移動
普段乗らないところに乗ってみる猫
引越しも3回目となると、猫が初日のうちに適応する
結果
大満足とのこと。大変ありがたいことです。
人間1は猫の生活スペースで日銭を稼いでいる。
猫のお気に入りだったIKEAの安物巨大ソファを処分したので心配だったが、ヨギボーマックスを占有するぐらいには気に入ってくれたので安心。
人間にも定期的な運動が必要。部屋が広くなってよかったとの声が多数。 ## まとめるとしたら
猫日記以外の価値があるとは思えないが、今回の引越しの体験を向上させたポイントをまとめてみる。
- 事前にわかる範囲でのインターネット設備調査と、V6 プラス有効化の効果
- 引越し業者の見積の雑さ、特に梱包資材の確保
- 猫退避スペースの重要性
Footnotes
前提として、自分がこうした変化に今のところ強いセクターである、ソフトウェアエンジニアの職を得ているところは無視できない。そもそも、情勢がこうなる前も、週 2 日ぐらいは家から仕事をしていた。 ↩
SARS-CoV-2 のヒトからネコへの感染例はごく稀らしいので、イエネコはヒトの健康の心配をしたほうがよい。 ↩
別の脚注では変化に強いと書いたが、現職には全社的なリモートワーク制度は 2020 年 12 月時点では存在しない。就業規則を確認すると住居に関する指定はなかったため、ここに書いたような理由を述べて交渉して、許可が出たのでやっている。それ自体はありがたいことだし、良い環境だと思う。が、普段新規事業とかの話でキャッキャして、社会にいろいろと進歩圧をかけている側にいる人が多いわりには、こういう変化には戸惑っているというか、少なくとも全社的な制度は他社より保守的だったのは驚いた。 ↩